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橋下弁護士への懲戒請求に対する同弁護士のコメントにモノ申す [日常]

何だかやたらと長いタイトルになりましたが、今回は、12月17日に約340人から所属先の大阪弁護士会に懲戒請求をされた橋下弁護士のコメントを取り上げたいと思います。

少し長くなりますが、以下にニュース全文を引用します(引用元はYahooニュースです。)。

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橋下氏に340人が「逆」懲戒請求 光母子殺害めぐり
12月17日22時35分配信 産経新聞

 大阪府知事選への立候補を表明している弁護士の橋下徹氏(38)が、平成11年に起きた山口県光市の母子殺害事件の裁判をめぐり、被告弁護団の懲戒請求をテレビ番組で視聴者に呼びかけたことに対し、全国の市民ら約340人が17日、「刑事弁護の社会的品位をおとしめた」として、橋下氏の懲戒処分を所属先の大阪弁護士会に請求した。
 懲戒請求書によると、殺人などの罪に問われている被告の元少年(26)=広島高裁で差し戻し控訴審が結審=の主張を弁護団が擁護することについて「刑事弁護人として当然の行為」と主張。橋下氏の発言は弁護士法で定める懲戒理由の「品位を失うべき非行」などにあたるとしている。
 橋下氏は、5月27日放送の「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ系)で、元少年の弁護団が1、2審での主張を上告審以降に変更し、殺意や婦女暴行目的を否認したことを批判。「もし許せないと思うんだったら、一斉に弁護士会に懲戒請求をかけてもらいたい」などと視聴者に呼びかけた。
 懲戒請求に対し橋下氏は「特定の弁護士が主導して府知事選への出馬を表明した時期に懲戒請求したのなら、私の政治活動に対する重大な挑戦であり、刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」とコメントした。

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光市の被告弁護団と橋下弁護士の確執は以前から知っていましたが、特に興味もなかったのでこのブログではとりあげていませんでした。
が、今回の橋下氏のコメントには、同じ弁護士として強い違和感を感じたため、少し苦言を呈してみたいと思います。

上記報道によれば、橋下氏のコメントは、「特定の弁護士が主導して府知事選への出馬を表明した時期に懲戒請求したのなら、私の政治活動に対する重大な挑戦であり、刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」とのことです。

まあ気持ちはわかります。
実際、府知事選に立候補したこのタイミングでの懲戒請求には何らかの意図を感じますし、同時に340人もの人間が懲戒請求を申し立てたというのも、背後に組織的、政治的な動きを感じます。
「政治活動に対する重大な挑戦」と言いたくもなるでしょう。

が、その後の「刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」という部分はいただけない。

刑事弁護において、刑事弁護人は被告人の言い分を述べ、被告人の権利を擁護する役割を担っています。それは、少なくとも日本の刑事訴訟法においては、正義であるとか悪であるとかということを超えた、1つの役割なのです。

なぜこのような役割が刑事弁護人に与えられているかについては、「被告人の権利保障」、「適正な刑事手続の保障」、「多角度から事件に光を当てることによる真実発見」等の実質的根拠(それが真に「実質的根拠」たりうるものかどうかという吟味は必要ですが。)に基づく説明がされています。
このうち、「被告人の権利保障」や「適正な刑事手続の保障」は、憲法に由来するものであり(憲法31条以下参照)、その憲法を受けた刑事訴訟法、弁護士法により、刑事弁護人にその擁護の役割が課せられているものです。

刑事弁護人が、被告人の言い分を、(それがどんなに前後一貫しておらず、かつ荒唐無稽なものであっても)主張しないというのは、この役割を放棄していることになるのです。
役割を果たすことが、「一般市民の感覚から離れている」、「厚顔無恥」と言われてしまうのであれば、刑事弁護人としては、「だったらそういうことをしなくていいように、憲法を改正して、刑事訴訟法と弁護士法もついでに改正してくださいよ。」と言うしかありません(厳密には刑事被告人の権利に関わる条文の改正は、憲法の改正限界に引っかかってしまうと思いますが)。

「そのような憲法の規定自体がおかしい」、「なぜ犯罪者にわざわざ弁護人をつけてやらなければいけないのか」と思うのであれば、改憲運動を起こして刑事被告人の権利に関わる憲法の条文を改正してもらえればよいのですが、少なくとも現時点では、被告人の権利保障に係る憲法の規定は生きていますし、それに基づく刑事訴訟法、弁護士法も有効です。
そして法令が有効である以上は、刑事弁護人はそれにしたがって役割を果たすしかありません。

どうも橋下弁護士は、刑事被告人の弁解の権利が憲法上の権利であるということをすっかり忘れてしまっているような気がしてなりません。
刑事弁護人は、別に自らの信念や正義に基づいて弁護活動を行っているのではなく(もちろん、そういう人もたくさんいますが)、日本国の最高法規である憲法により、刑事被告人の権利を擁護する役割が課せられているから弁護活動を行っているのです。

正義か悪かという曖昧かつ相対的、主観的なものが、刑事弁護活動の形式的理由ではない以上、「刑事弁護人の正義のみを絶対視」という反論は的外れと言わざるをえません。
(まあ、340人が同時に懲戒請求をした、というあたりはある種「狂信的」ではあるでしょうが)。

もし、橋下弁護士が、「そのような憲法上の権利規定そのものが市民感情から乖離しており、正義に反する」とおっしゃるのであれば、是非とも改憲活動に勤しんでいただき、憲法を改正してください。
そうすれば、荒唐無稽な言い訳をする被告人の言い分を法廷で述べる必要もなくなり、刑事弁護人の羞恥心に対する負担もだいぶ軽減されると思います。

弁護士も人間。
ごくごく一部の変態を除いて、「甘えるつもりで殺す気はなかった」、「復活させるために死姦した」なんて弁解を真剣に法廷で述べることに羞恥心の疼きを感じない人などいないのですから。


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コメント 3

masakono

この話を聞いて、オウム裁判の時に被告側の弁護を行った国選弁護士のことを思い出しました。彼らは被告を弁護するのが仕事であり、世間・世論といったものに立ち向かわねばならない。ここには、個人の感情を挟むことはできないでしょう・・・。
日本の刑事訴訟法等、このままでよいのでしょうか。でも、刑事でも民事でも事件には常に「冤罪」の可能性があることを考えると、被告を保護する何らかの方策は必要でしょうね。
by masakono (2007-12-20 19:11) 

Kotty

>masakono様

橋下弁護士の言いたいこともわかるんですよ。
彼の呼びかけにこたえて、実際に数千人もの人間が弁護団の弁護士に懲戒請求を行ったというのも、彼の言っていることが一般市民の心情にフィットしたということでしょうから。

ただ、「弁護士がそれ言っちゃいかんだろう」ということです。

弁護士が被告人の主張内容がおかしいと主観的に判断してそれを法廷で主張しないのは、たとえて言えば、検察官が(明らかに被告人が犯人であると推認させる証拠があるにもかかわらず)、主観的に捜査結果に納得できないから起訴しないということと同じです。

「その言い訳がおかしいかどうか」を判断するのは裁判官の役割です。
弁護士は、被告人が言おうとしていることを、法的に整理して主張するのが役割であって、自分で勝手におかしいと判断して主張をやめてしまうということは許されないのです。

ちなみに、実際に被告人が荒唐無稽な主張をしている場合(麻薬系の事件に多い)、一般的には「そんな言い訳じゃなかなか裁判官は納得してくれないよ」などといって説得します。
が、それでも被告人が自分のストーリーにこだわった場合、しょうがないのでそのまま主張します。

仮に私が光市の事件の弁護団であったとして、説得してもどうしても被告人から自分のストーリーを主張してほしいとお願いされたら、世間の批判を承知の上でそのとおり主張したと思います。
これは全国のほとんどの弁護士も同意見だと思います。
by Kotty (2007-12-21 04:50) 

英語を書く

母親と子供を殺したことは本当に衝撃的です。今、最後の瞬間にどうなる?偉大な article.v のおかげで
by 英語を書く (2013-05-31 20:44) 

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