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劇団四季の「ウィキッド」 [観劇、映画]

ようやくネットにつながりました。
インド話は別館ブログでさんざん書いているので、こちらでは少し違う話を。

インドに発つ前に、劇団四季の「ウィキッド」を見てきました。
原ミュージカルは、もちろんブロードウェイの「Wicked」(Wickedは、「邪悪な、悪い」という意味)。
発音を日本版のタイトルにするのであれば、「ウィックェッド」とでもするのが正しいと思いますが、これだとあまりにも語呂が悪いので、やはり「ウィキッド」が妥当でしょう。

「オズの魔法使い」でのやられ役の「西の悪い魔女」を主人公とする、「良い魔女グリンダ」、「オズ」、「東の悪い魔女」その他オズの魔法使いの登場人物に関わる隠された物語、というのがストーリー。
こういうサイドストーリーは思いついた者勝ちなので、最初に「オズの魔法使いの悪い魔女にスポットを当てたストーリーを作ろう」と思いついたWickedの原作者はたいしたものだと思います。

結論からいうと、四季版の「ウィキッド」は素晴らしかったです。
例によって、「英語で演じられることを前提とした歌劇」を日本語で演じることによる限界はちらほら見られますが、これはしょうがないでしょう。
劇団四季の輸入モノのミュージカルの中では、かなり良い出来だと思います。
日本に帰ったときに、機会があればもう一度見に行きたいです。

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以下、ネタバレの内容を含むので、ご注意ください。

あえて注文をつけるとすれば、以下の点くらいでしょうか。

・エルファバとの関係を聞かれた際のグリンダの対応
英語版では、「It depends on what you mean by “friend”」とさらりと受け流していますが、四季版では2人が友達であったことを否定するような表現が出てきます。
2人が友情を確かめ合う名曲「For Good」(英語版の原題。以下同じ。)から繋がるエルファバとグリンダの関係を考えると、否定的な表現は避け、「友達にも色々な仲がある」という程度の訳がよかったと思います。
英語版のグリンダの「It depends on what you mean by “friend”」という表現には、質問者が期待する回答とは逆の意味の回答という含みがあるわけですが(悪い魔女とグリンダが友達だったということを信じたくない質問者は上記回答を聞いて「ああ、大学の同級で知り合いという程度だったんだな」と解釈するのに対し、グリンダは「かけがえのない親友である」という意味で回答しているという、質問者と回答者の解釈の相違を利用したグリンダのエスプリの効いた回答だと思います。)、今の日本語版ではそのニュアンスが完全になくなってしまっています。

・フィエロの歌の歌詞
英語版では、フィエロは、その登場曲である「Dancing Through Life」や、エルファバとのデュエットの「As Long As You’re Mine」で、数回brainlessという単語を使います。
歌中では、「愚かな、考えなしの」という意味で使用されていますが、わざわざfoolやfoolishという一般的な単語を使わず、brainlessという単語を使っているところに、実はとても重要な後の伏線があるので、これを何とか再現してほしいと思います。とはいえ、日本語で「脳なし」と訳してしまうと、舞台では使いにくい単語になってしまうので、悩みどころではありますが。

・「I’m Not That Girl」の使い方
この曲には、後にrepriseがあるのですが、関連性がややわかりにくくなってしまっています。自分に恋愛は縁がないとあきらめていたエルファバが、実は最も愛する人に関してだけはグリンダに勝っていたという、エルファバの諦念とグリンダの悲哀をrepriseを利用して同時に表現する名曲なので、関連性をもっと前面に出してもよいと思います。

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とはいえ、上記はいずれも細かい話といえば細かい話です。
四季版の「ウィキッド」が、全体として出来がよいことは間違いありません。

ちなみに、見に行かれる際は、あらかじめ「オズの魔法使い」のDVD(ジュディ・ガーランド主演の廉価版)を見ていかれることをお勧めします。


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コメント 4

Kelly

はじめまして!突然失礼します。Wickedのストーリーを知りたくて検索しているうちに伺いました。
2004年のトニー賞授賞式でイディナ・メンゼルのDefying Gravityの素晴らしいパフォーマンスをみて、ずっとWicked来ないかな~と思っていたら、四季がまさかのリメイクで、超がっかりした者です。(ま、予想はしてましたが・・・)

「ブロードウェイミュージカルは頼むからホンモノを連れてきてホンモノで観せてくれ派」の私としては、NYにいける時間も金も英語力もないだけに四季リメイクについては、本当に本当に悔しい限りだったので、こちらの記事はとても興味深く拝見しました。
大変面白く勉強になりました!

読ませていただいて、やはりこれだけの高い英語の理解力がないと、ブロードウェイ版で観ても意味無いかなーと思いつつも、お書きになっていらっしゃるような、翻訳したからこその矛盾やちょっとしたニュアンスを日本人の演出家が捻じ曲げることを考えると、やはりイディナを連れてこいとはいわないまでも、ブロードウェイ版で観たいとつくづく思ってしまいます。

個人的には残念ながら(?)、Kotty様としては四季版もそう悪くないとのことで・・・素人だらけの日本の芸能界も、舞台役者さんには実力がある人が沢山いる、というところでしょうか。
しかし、どうせなら英語の歌を無理やり日本語に訳すようなことはせず、オリジナルでミュージカルを作ってそれだけ演ってろとも思うのですが・・・。

つい、怒りのあまり表現が下品で申し訳ありません(^^;)
ただ、四季がやってくれたおかげで、オリジナルブロードウェイキャストのサントラが対訳付きで販売されたことは嬉しいです!
日々、DefyingGravityをヘヴィ・ローテーション中です。

ではでは!
by Kelly (2007-09-10 19:48) 

Kotty

>kelly様
ご来訪&コメントありがとうございます。
現在外国におり、通信環境が整うまで時間がかかってしまったため、レスが遅くなってすみません。

ご指摘のとおり、そしてこのブログでも何回も取り上げているとおり、
「本来英語で作成され、英語で演じられることが予定されているミュージカルを、日本語にして演じる」
ということにより、台詞回しやストーリー展開に多くの無理が出ることは避けられず、そのため、オリジナル版の面白さを追求する方には日本語版(事実上「四季版」と同義ですが)に不満が出るということはやむをえないと思います。

とはいえ、歌詞を日本語にして歌っているのは、「たくさんの方にミュージカルに親しいんでもらう」というのが目的のはずで、それはそれとして悪くないと思います。
実際、もともとが英語のものを日本語に直すのは大変なはずで、英語版をそのまま再現した方が演出家にとっても役者にとってもよほど楽だと思います(オリジナルの歌詞をそのまま使えますし、音節の区切り等もいじる必要がありません。)。

それをわざわざ日本語に直して、子供も楽しめるような形にしているのは、疑いも無く劇団四季の偉大な功績だと思います。
私が四季版の「ウィキッド」を素晴らしいと思うのは、上記英語を日本語に直すことによる問題を、可能な限り低く抑えていると思うからです。

が、英語を日本語に直すことにより、どう頑張っても韻や微妙な英語のニュアンスが一定以上切り捨てられてしまうのも確かで、kellyさんの失望の気持ちはよくわかります。

オリジナル版を見たほうが、ストーリーをより深く理解できるのは間違いありませんので、もうこれはNYかロンドンに行くしかありませんね(笑)
向こうが来てくれなければこちらから行く!ということで。
by Kotty (2007-09-18 19:13) 

Kelly

こんにちは!レスをありがとうございました!

やはりKotty様くらいに英語がご堪能になると、逆に寛容になれるのかもしれません・・・私がこういった四季の活動に批判的なのも、自分が英語そのままだとわからないことの悔しさの裏返しかもしれません!!

四季の意図はおっしゃるとおりだと思います。
子供にこそ本物を見せたほうがいいと思ったりもするのですが、しかしある程度の年齢にならないと字幕も読めませんもんねえ・・・。トホホ。

ところで、

>英語版をそのまま再現した方が演出家にとっても役者にとってもよほど楽だと思います

というご意見ですが・・・これはどうでしょう??(ーー;)
日本人の英語力は今だ大してレベルアップしているとは思えませんし、四季の演出家や役者がフル英語での演技や演出が出来るほどの人は、そんなにいないかと思うのです。

もしいるなら、もっと日本人がブロードウェイやハリウッドに進出してもいいはず・・・というのは単純すぎるかもしれませんが!東洋人差別もありますし・・・。

なんにせよ英語でやるくらいならブロードウェイを連れてくるのではないかと・・・。どんなに苦労しようとも、多分日本語に直したほうがうよっぽどラクと考えるのではないでしょうかねえ・・・なんて思うのですが。

ともかく、やはり子供向けになりそうな作品はどうしても四季が日本語でやってしまい、四季がやってしまうと、ブロードウェイは来てくれない、とこういう構図のようなので、ウィキッドはやっぱり残念でした!
おっしゃるとおり、行くしかないですねやっぱりー!!!(*o*)
by Kelly (2007-09-21 16:58) 

Kotty

>Kelly様
コメントありがとうございます&レス遅くなってすみません。
(最近、こちらのブログの存在を忘れ気味です…)

英語版を英語のまま日本人が演じるという点ですが、多分思っているほど困難ではないのではないかと思われます。

まず、歌の部分は歌詞とメロディーを覚えてしまえばすみますし(中学生でも洋楽をコピーして歌っていますよね)、台詞の部分も、いったん劇の中の流れで覚えてしまえばそれほど大変ではないように思われます。

とはいえ、確かに、発音や英語独特の言い回しなど、日本人には不慣れな部分もありますので、英語版をそのままというのはやっぱり難しいかもしれませんね。

よく考えたら、英語でやるなら何も無理に日本人が演じる必要はないわけで、四季がブロードウェイから準主役クラスを引っ張ってくる、という手もありますが(笑)
by Kotty (2007-10-02 15:23) 

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